中間玲子先生インタビュー_幼少期の自己肯定感の重要性と育み方のポイント

 子供を育てる中で、自己肯定感という言葉を耳にする機会は多いのではないでしょうか。自分に自信をもち何事にも前向きに取り組める、失敗しても諦めないで挑戦する、そんなポジティブな気持ちで生きている人の多くは、幼少期に自尊感情(以下、自己肯定感)がしっかりと育まれていることが多いようです。そこで今回は青年心理学がご専門の兵庫教育大学中間玲子教授に、自己肯定感の育み方について伺いました。忙しい日々の中でもできる、ちょっとした意識や声がけのポイントも紹介します。

中間先生

中間玲子(なかまれいこ) 兵庫教育大学大学院教授。専門は自己論、青年心理学を専門とし、青年期の自己形成過程について研究をしている。著書に『自己形成の心理学』(風間書房, 2007)、『自尊感情の心理学:取り扱い説明書』(編著,金子書房, 2016)、『現代社会の中の自己・アイデンティティ』(編著,金子書房, 2016)など多数。
兵庫教育大学ウェブサイト:https://www.hyogo-u.ac.jp
中間玲子ウェブサイト:http://web.hyogo-u.ac.jp/nakama/index.html

幼少期に自己肯定感を育むことの重要性

――幼少期に子供の自己肯定感を育むことは、青年期以降にどのような影響があるのでしょうか?

自分がどういう存在であるのかを知る幼少期の早い時期から、自分は肯定される存在だという眼差しを向けられることで、自己肯定感を支える根っこの部分が育っていくと言われています。この根っこの部分というのは、理屈とか条件がつかない感情的ともいえるところです。理屈抜きで「自分の存在はいいものなんだ」「自分はこの世に存在しててもいいんだ」という感情が根っこにあることで、青年期の色々な葛藤や悩みを抱え、自分自身でも一体何に悩んでいるのかわからない時期に、自分はここにいていいんだという思いを抱き続けることができます。

青年期は、身体発達の影響でホルモンバランスが乱れ、否定的な感情や衝動性にとらわれやすい時期になります。脳が発達する中で、この時期には世界をネガティブに捉えやすくなってしまうことも、最近の研究ではわかっています。幼少期に育まれた自己肯定感の根っこが張っていることは、非常に悩みやすい青年期を生き延びる上で非常に重要になると考えられます。本人も意識していないような心の深いレベルで自分が存在することを肯定できているならば,生きづらさを抱えながらも、自分が存在し続けることを前提にして、これからも生きていく自分に向き合うことができると思われるからです。

自己肯定感を育むためのポイント

――自己肯定感が低い子供に対して、親にできることはなんでしょうか?

まずは、いろいろな価値観に出会わせてあげるということが大事になるかと思います。自己肯定や自己否定というのは、自己を評価することで生まれる感情、つまり満足や不満足という評価的な気分なんです。そのため、その評価の基準となる価値観が多様であれば、一個が低くても別のところでは保持できたりということが可能になります。多様な価値観の尺度が存在すると実感できるように促してあげられると良いですね。

例えば、学校の成績という一つの価値観ばかりに囚われる世界に生きてしまうと、成績が良いという価値を満たすことができない子供は苦しくなります。でも、成績以外にも、いろいろなポイントで、こんなとこいいよね、あんなとこいいよね、という多様な価値観で日頃から接してあげることで、自己否定に陥った時に、別の観点から自分を眺めるヒントになるのではないかと思います。

家庭での日常会話の中で、お友達や芸能人の話、あるいはいつも使っているお気に入りの道具などについても、いろいろな見方で、「あの人のこんなとこいいよね」、「この商品のこんなとこいいよ」という感じで、いろんなポイントで見ることを経験させてあげるのも一つです。ぜひ親御さんには、人や物に対して肯定的に受け止めてそれを伝えていく語りかけを意識してほしいと思います。

もしお子さんが自分の特性を否定的に捉えている場合、その特性自体は否定しなくても良くて、「違う見方ができるよ」と投げてみるのもよいでしょう。おとなしい性格を引っ込み思案と否定的に捉えているのであれば、「おしとやかっていう見方もできるよね?」という感じです。「あなたはそう思うんだね、でも私はこういうふうに思うよ」と他人の意見として投げておいてあげてみてください。自己否定していることに、「いや、そんなことないよ」と否定するのではなく、その子が否定している気持ちはしっかり肯定してあげて、その上で「(あなたのことを見ている)私は、あなたのことをこういう風に思っているよ」と伝えてあげるのがポイントだと思います。

――勉強や成績に関して過度に口を出すことは良くないですか?子供のやる気を引き出すコツを押してください。

勉強中の学生

ちょっと努力が必要なレベルが、その子が一番夢中になれる活動基準と言われています。もし何か目標を設定する場合には、お子さんをよくみて、その子にとって簡単すぎず、でも難しすぎない、頑張ったら達成感を得られるようなチャレンジしやすい目標を設定してあげると良いかもしれません。

ただ、自己肯定感の観点で言うと、目標達成をゴールにしながらも目標に向かうプロセスをちゃんと見てあげることが大切だということをお伝えしたいです。もし勉強や成績の目標を達成できなかったとしても、それに向かって成長したり学んだりできたことをぜひ認めてあげてほしいです。

そして、その時掲げた目標を達成することが唯一絶対であるような価値観を形成しない、その目標が達成できないからといってその子の価値が決まるわけではないという空気を家庭内で出しておくことが大切かなと思います。

――共働きなどの忙しい日々の中で意識できることはありますか?

自己肯定感から少し離れますが、子供が親に愛され守られている感じる心の絆のことを愛着といいますが、この愛着が形成されるには、共にいる時間の物理的な長さよりもその時間の質が重要であると言われています。

共働きで一緒に過ごす時間が少ないことを後ろめたく感じているご家庭もあるかと思いますが、限られた時間の中でもお子さんと接する際はぜひ質を意識してほしいと思います。例えば、学校での出来事やお友達と遊んだことをしっかり聞いてあげることも一つかなと思います。話を聞くと言うのは非常にエネルギーのいることではありますが、子供の世界の話を聞き共感してあげることで子供は満たされた気持ちになります。

また、お手伝いなど、家の中でしてくれたことやできたことにちゃんと気づいて、言葉をかけてあげるというのも大切なことかなと思います。

あとは、スキンシップも単純ですがぜひ意識してほしいです。ハグすると親も癒されますし、子供も安心します。学校の先生や他の大人ではなかなかできない、親だからこそできるのがスキンシップではないでしょうか。

――褒めることと叱ることのバランスはどのように考えるべきですか?

褒めると叱る、どちらがいいかはあまり考えなくて大丈夫です。

その子の行動をしっかり見てフィードバックをするという意識が大事です。よい行動に対してでも悪い行動に対してでも、子供が何をしたかを見た上で、その行動について言葉がけを行うということです。それは、自分が何をしたかを見てくれている大人がいるというメッセージにもなります。こうした言葉がけが安心感にもつながるので、褒める叱るのバランスに気を取られるよりは、褒めるにしても叱るにしても、子供の行動をしっかりと見てどんな言葉をかけるかに注意した方が良いかなと思います。そしてその時に注意すべきは、その子のポジティブな成長を信じてのフィードバックになっているかどうかということです。

なお、全体的な人格否定や人格の決めつけにつながるような言い方は絶対にやめましょう。「だからあなたはこうなのよ」というのはタブーだと思ってください。人間の記憶のメカニズムとして、ネガティブな記憶の方が残りやすという性質があります。叱る場合は人格は否定せず、次はどうしたら良くなるかも伝え、ネガティブなだけの記憶にとどまらないように言葉を尽くすことが必要かなと思います。

子育て中の親御さんに向けてメッセージをお願いします

中間先生

――自己肯定感を育むために、家庭でできることはありますか?

冒頭にもお伝えしたように、青年期になると否定的な感情に陥りいろいろな闇が出てきます。そんなときに、幼少期から育まれた自己肯定感はとても大事になります。自分が存在するに値するということを無条件に信じさせてあげるあなたはそこにいていいんだという絶対的な愛情を注いであげることが重要です。

社会に出たらいろんな視点で評価されますし、親もきっといろんな時点で評価するとは思うのですが、それでもその子の存在自体を肯定するということを親が繰り返し繰り返し感じさせてあげることが大事かなと思います。

それから、親自身が世界を肯定的に捉えられるよう意識してほしいと思います。そのためには心身ともに健康でいることも非常に重要です。健康でないと否定的な感情に囚われてしまいますからね。親だって日によって万全じゃないときがあるのは当たり前です。理想の親を演じようと自分を追い込まず、できるときに意識してみるところから始めてみてほしいと思います。

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編集部コメント

息子が赤ちゃんだった頃は、「毎日元気に生きてくれているだけで十分」と思い日々過ごしていました。そんな息子も気づけば5歳。意志が強くなり、口答えする知恵もついてきました。Youtubeを見過ぎないでほしい、習い事も頑張ってほしい、小学校に向けて読み書きもやらなきゃなど、親の願望のほうが前に出て、子供のありのままを受け入れる、存在に感謝することが疎かになっていたなと、中間先生のお話を通して反省しました。まずは子供の存在を認め愛すことが子供の真の強さや幸せに繋がるという、長い子育ての中で一番大切なことを教えていただいたような気がします。