“親子でできる”AIを活用した英語学習
子どもの習い事ランキングでは、常に上位にある「英会話」。小学校からの英語教育が必須になったこともあり、お子さんの英語学習に不安を感じている親御さんも多いのではないでしょうか。最近では従来の英会話スクールに加えて、オンライン英会話やタブレットでの英語学習も選択肢として挙げられますが、AIを活用した英語学習も今後はより普及していくと考えられます。そこで今回は、東京学芸大学 英語科教育学分野 教授の高山芳樹先生にAIを活用した英語学習についてお話を伺いました。
高山芳樹(タカヤマヨシキ)東京学芸大学教授。学習院高等科教諭、立教大学専任講師などを経て、現職。専門は英語教育学。著書に『最強の英語発音ジム』、『語順が決め手!鬼の英文組み立てトレーニング』(アルク)、『きいて・みて・まねて覚える英語の音 動画でできる音声指導』(大修館書店、共著)、『小学生の英語のギモン相談室』(NHK出版、共著)など。2014年度NHKラジオ「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ」監修。NHK Eテレで2015~2018年度「エイエイGO!」、2020年度前期「おもてなし 即レス英会話」、2020年度後期・2021年度前期「もっと伝わる!即レス英会話」講師。
東京学芸大学ウェブサイト:https://www.u-gakugei.ac.jp
高山芳樹研究室ウェブサイト:https://www2.u-gakugei.ac.jp/~yoshiki/
近年の英語学習環境について
子どもが英語を習う手段に変化は見られますか?
子供が英語を学べる環境は、コロナ禍を経て一段と様変わりしたという印象があります。
子ども英会話教室というのは昔からあり、私も以前AEON(イーオン)という英会話学校に勤めていたことがあります。3〜4歳児にレッスンをしたこともありましたが、30年以上前の当時は子どもに英語を習わせるのはレアなケースで、経済的に豊かで余裕のあるご家庭が、高い月謝を払って英会話学校に通わすという時代でした。
しかし、今ではそんなにお金をかけなくても豊かな英語学習環境を手に入れることができます。コロナ禍を経て、「オンラインで学ぶ機会」も特殊なものではなくなりました。コロナ前からオンライン英会話は、大人の英語学習の中では流行っていて、定着はしてきていたんです。それでも、オンライン英会話で勉強するのは、お金に余裕があったり仕事で必要だったりと自己投資をする大人が中心でした。
コロナ禍以降、親御さん自身もオンラインのやりとりに慣れたことで、オンライン英会話が子どもの英語学習の一つとしても定着してきた印象を受けています。2021年のAEONの「子どもの英語・英会話学習」に関する調査によると、オンライン・個人学習でも「子どもにとって質の良い勉強ができる」と考える保護者が4割以上にのぼっています。
子ども向けのオンライン英会話は、種類も豊富で多額の月謝をつぎ込まなくても、気軽に英語に触れる機会を得ることができます。
またオンライン英会話は、多くがマンツーマンレッスンですので、先生を独り占めできるという利点もあります。自分の限られた単語や文法でなんとか伝えていこうという、外国語の学習にすごく大事な側面も鍛えられます。
最近の大学生の英語力に変化は見られますか?
大学生の英語力は上がっていると感じます。特に話すことに抵抗がなくなってる印象を受けますね。
東京学芸大学は教員養成大学なので、教壇に立ち、生徒役の学生の前で授業をする模擬授業のトレーニングを必ずやるのですが、昔の大学生に比べて今の大学生は人前で臆せずに英語で話すことができます。しかも、ある程度継続しながら英語でやり取りが上手にできるようになりました。
以前は模擬授業や人前で英語を話す場面では、事前に用意してきた原稿を頼りに読み上げるような学生も多かったのですが、最近は話し言葉での英語のやり取りが自然にできる学生が多いです。
もちろん彼らは小学校から英語に触れている世代ではありますが、英語に限らず日本語でも授業内で発表するという機会が私の小中高生の頃よりも、はるかに多いということも背景にあるかと思います。言葉による表現力を伸ばすには、実際に表現をする体験をたくさん持つことがとても重要なのです。
英語が必修となった小学生は、将来英語を話せるようになりますか?
現在の大学生の英語力も上がっているように、これからの子供たちの英語力はより上がっていくと思います。
2011年度から、日本の小学校では5・6年生の高学年を対象に「外国語活動」がスタートしてるんですね。ALTの先生を呼んで、外国語でゲームをしたり歌を歌ったりという活動もされていました。
2020年度からは、3・4年生から「外国語活動」が始まり、5・6年生では教科として検定教科書を使った英語の授業が必修になりました。小学生のうちに600〜700語程度の単語を学習する内容になっています。
早くから定期的に英語特有の音声に触れたり話したりするので、これからの子どもたちの英語力は我々世代よりも高くなるでしょうし、ある程度の会話ができる人も徐々に増えてくるでしょう。
ただ、残念なことに、英語嫌いも増えてる事実もあるんです。
小学校での英語の教え方は、まだまだ発展途上なところもあり、授業を担当される先生や学校の学習環境の違いがかなり大きいのが正直なところです。知識の詰め込みのような教え方をされた子どもたちは、小学生のうちから英語嫌いになってしまうことがあります。また、都心の私立中高一貫校などでは入学試験で英語を課している学校も増えています。中学受験のために英会話学校に通わせたり、オンライン英会話を無理やりやらせたりするご家庭もあるので、子どもがプレッシャーを感じる機会も多くなっています。
英語教育の早期化で、英語嫌いを生まないようなケアも今後の課題の1つでしょう。
【AIの英語学習について】
AIの英語学習アプリを選ぶポイントはありますか?
私自身、AIの英語学習アプリをいくつかダウンロードして体験してみました。やはりアプリによってかなりバリエーションや仕掛けの違いはあるようです。
子どもが飽きないような、いろいろな仕掛けや相互のやりとりがあるアプリが子供には良いだろうと思います。
1つの英単語を覚えるにしても、単にイラストとつづりのマッチングでは、最初楽しくてもすぐに飽きが来てしまうでしょう。
例えば、りんごのイラストがジグゾーパズルにように分割されて出てきて、その分割されたリンゴのピースを自分の指で動かしてりんごの形を完成させると、ピンポーンとなり“apple”と音声が出るなんていうのは面白いなと思いました。
お子さんのタイプによってどんな仕掛けがハマるか変わってくると思いますので、いくつかのアプリをダウンロードして一緒に触ってみて、お子さんの反応を観察してみると良いものに出会えると思います。
子供が楽しめる、おすすめのアプリがありましたら教えてください。
いくつか試した中では、トド英語というアプリ(7日間の無料体験あり)はよくできたアプリだなという印象を持ちました。小学校入学前でも使えるレベルで、1つの英単語を覚えるにしても、面白い仕掛けがたくさんあり、なんとなく触れているうちに覚えられるようなアプリになっていました。イラストも可愛いですし、レベル別の英語の絵本も入っていて、かなりクオリティが高いと感じました。
また、Duolingoという無料のアプリも良いです。実は私も大人用のDuolingoで中国語を勉強しているんです。1日の隙間時間で勉強できるように設定されているのが絶妙です。子ども向けにはDuolingo ABCというアプリがあり、集中力が続かないお子さんでもできる短い活動がたくさんあるのが良いポイントです。短い活動がたくさん埋め込まれており、インプットとアウトプットが効率よくできます。ただ、トド英語よりはインプットとなる英語表現や指示が難しめな印象がありました。
東京学芸大学とミントフラッグ株式会社の産学共同研究でも使われている無料のAIえいごアプリ「マグナとふしぎの少女」もおすすめです。まずオリジナルアニメのストーリーが本格的で面白いです。アニメの1つ1つは短いストーリーであっという間に見終わる長さになっています。ストーリーに出てきた単語やフレーズを上手に発音できないと、バトルに勝てなかったり次のストーリーが見れなかったりするので、ゲーム感覚で何度も復習しながら英語を学んでいけます。日本語を話すキャラクターもいるので、英語がまだわからなくてもストーリーを楽しめますよ。また、表現を学ぶ上では、どんな場面のどんな状況で使われていたのかを具体的にイメージできるということが、とても大事になってきます。例えば、「分かりました」の“All right.”も、単に英語と日本語訳をマッチングするだけでは、どんな状況で使うのかまでわかりません。英語のフレーズを使う具体的な場面や状況を、アニメとキャラクターのやりとりを通して理解できるので、自分でも同様の状況で使えるようになります。AIの発音判定もあり、習熟度を判定して、間違ったものは何度も出てくる形になっているところも、効率的な学びに繋がっていきますね。
アプリ内では、「AIレイちゃん」という可愛い女の子のキャラクターがいて、レイちゃんとの英会話を楽しむこともできます。AIが使う英語表現の難易度(超初級・初級・中級・上級)や話すスピード(ゆっくり・ふつう・はやい)も事前に調整できるので、子どもにとってちょうどいいレベルでの英語でのやりとりが可能です。こちらが日本語で質問してもレイちゃんが英語で返してくれるモードも選べるので、何往復でも気軽に自由会話が楽しめます。自分が興味のあるテーマに関する英語のインプットもたくさん得ることができます。
前述しましたが、子どもが飽きない仕掛けが多いアプリが良いという点でも、「マグナとふしぎの少女」は特におすすめですね。
AIの英語学習アプリの音声・アクセント認識の精度はどの程度ですか?
徐々にではありますが、かなり精度は高くなってきているといえます。ただ、あまり精度を上げすぎると、 ’勉強’と感じてしまったり、ネイティブと同じような発音じゃないとなかなか前に進めなかったり、という弊害がでてきます。
子どもの英語学習アプリであれば、個々の音の発音やアクセントの精度を気にするよりも、ある程度ゆるく、やり取りを楽しめるというところに重点を置いてよいのではないでしょうか。
大人のビジネスマンで英語圏に赴任するために流暢で正確な英語を話したい、という状況と、子供の英語学習は異なります。
子供の場合はまず、日本語なまりでもいいので、ある程度伝わる範囲基準の中で、あまりにもかけ離れた発音の場合にのみ、ストップがかかるような、さじ加減で十分だと考えます。
【AIの英語学習を取り入れる際の注意点】
AIの英語学習を取り入れる際、親はどんなことに注意が必要ですか?
おもちゃや知育玩具でもそうですが、やらせっ放しにしないことが大切かと思います。我が家も娘が小さい頃は、親が忙しくなると、とりあえずおもちゃを与えておいて、親はやらなきゃいけないことをやる、みたいなことも時にはありましたが…
AI英語学習アプリもやはり、親が一緒に遊ぶ、やらせっ放しにしない、というのが親にできるサポートかと思います。
はじめのうちは、操作方法のサポートがもちろん必要ですが、子供だけでできるようになったとしても、丸投げせずに、いい発音やクリアできたときには、親が隣で褒めてあげると良いですね。親からの褒め言葉や働きかけがないと、ただ単にゲームで遊んでるだけになってしまいます。
AIが“Good job!” “Great job!”などリアクションした時には、親もその英語の褒め言葉を真似して言ってあげると良いです。
それから、ある程度時間の制限をかける方がいいでしょう。楽しいとどうしても、どんどんやりたくなってしまいますが、「今日はここでおしまい、また明日ね」とするほうが、もっとやりたかったという気持ちが残り、飽きがきにくいですね。
デジタル機器になりますから、健康面を考えて時間に関して親子でルールを決めてやるのが大事かなと思います。
英語を話せるようになりたい親子へのメッセージをお願いします。
英語を学ぶことで世界への扉が開くというか、楽しい経験がたくさんできるということをお伝えしたいです。
今は、英語を学べる環境がすごく多彩で、手軽にもなってきています。YouTubeでも生の英語にすぐ触れることができますし、 AI学習アプリも無料版でもかなり学べると思います。
お子さんに、英語によって世界への扉を開いて欲しいと思うなら、まずは英語を好きになってもらうことが大切です。いろんな素材が転がっているので、上手に活用されて、押し付けにならないように工夫して欲しいと思います。周りと比べたりお受験があったりでどうしても焦ってしまう気持ちもあるかもしれませんが、一度英語嫌いになってしまうと挽回するのが難しいんです。
まず遊ばせる、英語を使ってやり取りをする中で「なんか楽しいな」とか「英語と日本語にはこんな違いがあるんだな」とか、たくさん経験させて、まずは英語を好きになってもらうことを1番に考えた方が長い目でみると絶対に良いと思います。
それから、親御さんも一緒に楽しむということもすごく大事ですね。教材やアプリを子供にやらせてあとは知らない、ということではなく、できるだけ子供のそばにいて、一緒に英語の世界を楽しみ、「これ、面白かったね。」「この間クマさんって英語で何て言ったけ?」というような子どもとのコミュニケーションを心がけてみてください。親子共通の楽しみになると長く続きやすいですし、長く続くことは英語の定着につながります。英語は外国語なので習得できるまでにはとても長い道のりなのです。急には絶対伸びないので、長く続けて楽しんで付き合っていくということを親子でされるといいのかなと思っています。
東京学芸大学のウェブサイトはこちら https://www.u-gakugei.ac.jp
高山芳樹先生の研究室ウェブサイトはこちら https://www2.u-gakugei.ac.jp/~yoshiki/
編集部コメント
NHK Eテレ「即レス英会話」でもご著名の高山先生にお話をお伺いでき感無量でした。私自身が英語で苦労した経験もあり、子どもには英語を話せるようになって欲しいという想いが強かったのですが、焦らずまずは親子で英語を楽しむことに重点を置こうと思いました。また、最近の英語学習環境は恵まれていて、お金をかけずとも工夫次第で英語力をつけられることもわかりました。子どもと一緒に英語を学び直すつもりで、オンライン英会話やAIアプリも活用しながら、自宅での英語学習を工夫していきたいです。