親子で考える金融教育〜家庭内でできる金融リテラシーの育み方〜

親子で考える金融教育〜家庭内でできる金融リテラシーの育み方〜

近年、学校教育の中で金融教育が導入されるようになりました。金融教育を受けていない親世代にとっては、子どもの金融教育と聞くと、ハードルが高いように感じるかもしれません。今回は、日本大学経済学部教授の三井秀俊先生に、金融教育の現状やお家でできる金融リテラシーの育み方について伺いました。

日本大学三井秀俊先生の似顔絵

三井秀俊(ミツイヒデトシ)東京都立大学助手、日本大学経済学部専任講師・助教授・准教授を経て、2015年より同大学経済学部教授。 この間、千葉大学大学院・一橋大学大学院・筑波大学大学院・埼玉大学大学院・上智大学大学院・電気通信大学・東洋大学非常勤講師、埼玉大学大学院客員准教授・客員教授、日本大学経済学部経済科学研究所長、デューク大学客員研究員などを歴任、 博士(経済学)。 株式市場・デリバティブ市場・外国為替市場の計量分析を専門としている。 著書に『オプション価格の計量分析』、『ARCH型モデルによる金融資産分析』(以上 税務経理協会)などがある。


日本大学経済学部ウェブサイト:https://www.eco.nihon-u.ac.jp

三井秀俊researchmap:https://researchmap.jp/read0098362

金融教育や金融リテラシーの現状について

教育現場で導入されている金融教育の現状を教えてください

金融とは、主に銀行・証券・保険とその他に分かれるのですが、近年高校で始まった金融教育は株式投資の内容が多いようです。金融とは実はものすごく広い範囲なのに、株式投資の話が中心というのは、偏りがあるように思います。

最近では、東京証券取引所でも金融教育を推進していて、セミナーや情報発信を行なっています。中には、高校・大学の教員に向けた発信もありますが、その内容も株式投資の内容が主です。

日本取引所グループの金融経済プログラムの一覧

金融教育という認識はないかもしれませんが、日本の教育の中では、日本史、世界史、数学で金融教育の基礎となる金融の成り立ちや投資に使う計算を学んでいます。株式投資を否定はしませんが、まずは基礎の部分を小・中学校の学習で身につけることが重要だと考えています。

日本の金融教育が遅れているのはなぜでしょうか

諸外国と比較して、日本が特段遅れているわけではありません。米国などは投資金額が大きいために投資が盛んな国のようにみえるかもしれませんが、一部の富裕層がそれを牽引しています。

米国の一般層の人がみんな投資をしているわけではないということです。

日本において金融教育がなかなか進まない背景としては、金融教育を教えられる人がいないという点が挙げられます。学校の教員も金融教育を受けていませんので、いきなり生徒に教えられるはずはなく、専門家などに依頼することも多いと聞きます。

株式投資の教育は確かにハードルが高いですが、日本史・世界史・数学、または家庭科のなかで金融に関する内容を強化するだけでも、子どもの金融リテラシーは向上するのではないかと思っているところです。

子育て世帯の資産形成や投資について

教育費に学資保険を活用するご家庭も多いと思いますが、投資で教育費を用意するという考え方もあるでしょうか

考え方としては素晴らしいと思います。ある程度投資経験があり、リスクも許容できるご家庭では、投資で教育資金を準備するのも一つに手かと思います。

かつて米国では、高い金利の国債があった際に、国債を買って教育資金にすることが流行った時代もありました。ただ残念ながら日本においては、学資保険に代わるよい投資商品はなかなかないのが現状です。

新NISA制度も始まりますが、子育て世帯がNISAを活用して資産形成することに関してどう思われますでしょうか

NISAを活用して資産形成することは良いと思います。

ただ、NISAの制度をよく理解しないまま、なんとなく始めてしまうのは避けてほしいです。NISAは、投資での配当や利益にかかる税金が、一定金額まで免除される制度です。

「NISAを始めればお金が増える」「政府が推進する制度だから大丈夫」という理由で始めてはうまくいかないでしょう。

結局は、どんな投資商品を購入するか、購入するタイミングなどを勉強することが求められます。勉強した上で活用するには良い制度だということです。

家庭内での金融教育について

親の投資経験の有無が、子どもの金融リテラシーに影響を与えるでしょうか

これは金融に限りませんが、親がやっていることに関しては、ハードルは低くなる傾向があるので、投資をしている家の子どもは投資へのハードルは低くなると思います。

ただ、金融リテラシーが高くなったり、投資がうまくいったりは別問題なように思います。

例えば、大学受験を経験している親は、子どもに受験のノウハウを伝えられるので子どもが大学受験しやすい環境ではありますが、学力が高まるかどうかは子ども次第なところがありますよね。

投資も同様で、親が投資のノウハウを教えることができても、それを活かし学ぶ姿勢があるかどうかは子どもによって変わってくるでしょう。

電子マネーも普及する中で、お金の価値や大切さを子供に伝えるにはどのようにしたらよいでしょうか

電子マネーであっても、現金であっても、お金の価値観や大切さは変わらないと思います。大人でさえ、現金派と電子マネー派がいるように、使い慣れたものが心地よくなるだけで、お金の使い方はそう変わらないからです。

お金の形がどうであれ、子供に教えるべきことは、欲望のコントロールの仕方のように思います。お金が無限にあって何でも好きなものが買えるわけではないことを学ぶことが大切です。

そこで有効なのがお小遣い帳です。いつ、何に、いくら使ったか、を記録して見返すことで、入ってくるお金と出ていくお金の感覚を養えます。

子ども時代からお小遣い帳を習慣化できると、大人になってからもお金の管理が上手にできるはずです。

家庭でできる金融教育にはどのようなものがあるでしょうか

家計簿の写真

お小遣い帳を紹介しましたが、お小遣いをあげる年齢になったらセットでお小遣い帳を渡して欲しいです。

可能であれば、親が家計簿をつけている姿を見せてあげるのも家庭でできる金融教育の一つだと思います。

幼少期に身についた記録をする習慣は、大人になって投資を始める際にも必ず役に立ちます。投資でうまくいっている人は、必ず記録をつけて見える化しているんです。

大人になってから家計簿を始めようとして挫折した経験がある保護者の方ほど、子どもにお小遣い帳を提案して欲しいですね。

三井秀俊先生を詳しく知りたい方はこちら

日本大学経済学部ウェブサイトはこちら https://www.eco.nihon-u.ac.jp

三井秀俊ゼミはこちら https://www.eco.nihon-u.ac.jp/about/seminar/mitsuihidetoshi/

編集部コメント

教育現場で金融教育が始まったからといって、急に金融リテラシーが高まるものではなく、幼少期からのお金との付き合い方がより重要であることがわかりました。家計簿がなかなか続かない我が家ですが、子どもにお小遣い帳を提案すると同時に、家計簿も復活させようと思わせてくれる貴重なお話を伺うことができました。