ライフプランを立てることの重要性〜子どもの未来の選択肢のために親が知っておくべきこと〜
ライフプランと聞くと、就職や転職、結婚や出産など、人生における大きなイベントを思い浮かべる人も多いでしょう。例えば、結婚・出産・子育てには「する」「しない」も含めていろいろな選択肢がありますが、自分で判断し選択していくためには、正しい情報を知ることも大切です。そこで今回は、医師で岡山大学学術研究院保健学域教授の中塚幹也先生に、ライフプランの重要性についてお話を伺いました。自分らしく素敵な人生を送るために、ライフプランについて親子で考えてみませんか。
中塚幹也(なかつかみきや)岡山大学学術研究院保健学域 教授。1986年岡山大学医学部・医学科卒業。1992年~1995年 米国NIH(National Institutes of Health)に留学。1994年博士(医学)取得。専門はライフサイエンス、生殖医学。岡山大学生殖補助医療技術教育研究(ART)センター 教授、岡山大学病院リプロダクションセンター センター長、岡山県不妊専門相談センター「不妊・不育とこころの相談室」 センター長なども兼任。大学病院では、不妊内分泌外来、不育症専門外来、ジェンダークリニック(性別不合,性同一性障害の診療)を担当している。著書には『封じ込められた子ども,その心を聴く:性同一性障害の生徒に向き合う』(ふくろう出版)、『個「性」ってなんだろう?LGBTの本(監修)』(あかね書房)などがある。インスタグラム「中塚教授のひとりごと」で、また、Yahoo!ニュースエキスパートとしても「生殖とジェンダーの今」で発信中。
◆岡山大学大学院保健学研究科 中塚研究室ウェブサイト
http://www.okayama-u.ac.jp/user/mikiya/index.html
◆Yahoo!ニュースエキスパート「生殖とジェンダーの今」
https://news.yahoo.co.jp/byline/mikiyanakatsuka
◆ライフプランを考えるあなたへ.性と妊孕性の視点から見つめる「未来への選択肢」
https://miraihenosentakushi.jp
◆トランスジェンダーに関連する法律と医療を考える会(プロジェクトTGD)
◆インスタグラム「中塚教授のひとりごと」
https://www.instagram.com/nakatsuka_kyoju
ライフプランを考えることの重要性
ライフプランは何歳頃に考えるべきでしょうか?
ライフプランを立てることは、どの年代にも必要なものと考えています。もちろん、年代・環境によってライフプランの意味合いは変わってくると思いますが、人生の選択肢について考えることは大切です。
例えば、学生時代に将来なりたいものを考えるのもライフプランですし、仕事をしている人が転職を考えるのもライフプランです。いろいろな経験や知識を身につけた後で考えるライフプランでは、選ぶことのできる選択肢が広がります。中には、子どもを持つといった年齢が影響するライフプランもあります。
適切な知識や情報を得ることで、幅広く多様な選択肢を持つことができる時代だからこそ、どの年代になってもライフプランを考えてみることが大切だと思います。
ライフプランを考える際に知っておくべき情報にはどんなものがありますか?
ライフプランには様々な内容があります。例えば、学生時代であれば進学や就職、恋愛をする年齢になってくると、その先の結婚や子どもを持つことも考えるでしょう。仕事と家庭の両立であったり、仕事と親の介護との両立であったり、年齢とともに変化することもあります。かなり先のことになるかもしれませんが、老後のライフプランというのもありますね。
本来であれば、これらの情報を全て知っておくのが良いですが、あまりに先すぎる人生のイベントについて勉強しておくのはなかなか難しいものです。
子どもの頃には、まずは、身近な進学・就職・恋愛・結婚などに関して、ご家庭でも「将来どうしたい?」といった話題を出しながら考える機会を持つのが良いのかなと思います。
子どものうちから、ライフプランを考える重要性について教えてください
私は産婦人科医で、特に生殖医療を専門としているので、子どもが欲しいけどできない人たちの診療をしています。不妊外来の受診者の中には「卵子の老化について知っていれば、もっと早く受診したのに」という人も過去には少なくありませんでした。
十数年前、大学生への調査をしたところ、女性は60代でも子どもを産めると言った学生が5.4%いました。50代でも産めると答えた学生も36.6%で、妊娠しやすい年齢、すなわち「妊孕性」についてはあまり知られていませんでした。
2012年には、NHKの番組「産みたいのに産めない〜卵子老化の衝撃〜」の放映などもあり、「卵子の老化」という言葉が一般の人々の間でも知られるようになりました。最近では、東京都が卵子凍結保存の助成金を出すようになったこともあり、知らない方は減ってきていると思います。
「知っていれば、子どもを持つことができたのに」という後悔を減らすためにも、ライフプランの選択のために必要な基礎的知識は、全ての人が学ぶ学校教育の中で教える必要があると思います。
学校で妊娠や出産、子育てなどのライフプランについて考える機会はありますか?
教科の中でいうと、保健体育が一番考える機会の多い教科だと思います。ただ、家庭のことであれば家庭科でも扱うでしょうし、時代の流れも関係してくることなので、社会科で扱うこともあるかもしれません。しかし、系統的に教えるとなると、教科書や副読本でライフプランに関係する内容に触れている保健体育がメインになってくると思います。
ライフプランのために知っておくべき知識
ライフプランに関して学べるツールはありますか?
国や自治体、あるいは各種の団体などがいろいろな教材を作っています。私達も岡山県からの依頼で、プレコンセプションケアの啓発のために作成しています。単に文章と挿絵だけでは、なかなか読んでもらえないと思い、ストーリーのあるまんがにしました。
まんが本を読んで、もっと詳しく勉強したいと思った人に向けたリーフレットやYoutube動画も作成していて、ライフプランについて学びやすいツールになっています。
リーフレットは次のような4種類があり、妊娠の仕組みから不妊治療、また妊娠や出産・子育て、さらに妊娠したときにあわてないように、出生前検査(胎児の異常の有無を調べる検査)についても、幅広く学べるものになっています。
また、まんが本には、LGBTQなどの性の多様性も一緒に学べる内容を追加した「拡大版」もあります。
ライフプラン教育を受けたときに、LGBTQの子ども達が「自分には将来がない」と思うことがないように、全ての人が家庭をもったり子どもをもったりできることについて描いています。
このように「妊孕性」、すなわち、妊娠しやすい年齢や生殖医療などの妊娠するための方法の情報提供を続けてきました。そして2024年には岡山県の依頼で、妊娠する前に「妊孕性」も含めて、もっと広く知り準備しておくこと、すなわち、「プレコンセプションケア」を啓発するための中学生・高校生用の教材(Webと連動したパンフレット)も作成しました。
子どものライフプランをサポートするために
子どもがライフプランを考えられるように親が学ぶべきことはありますか?
親が学んでおくべきことはたくさんあると思います。実際、先ほど紹介したようなまんが本やリーフレットなどに書かれている妊孕性に関しては、子ども達に学んでいってほしい内容ですが、大人でも知らないことは多いと思います。妊娠しない不妊症や、流産死産を繰り返す不育症の当事者になって、勉強した人もいるかもしれませんが、そうでなければ詳しくは知らない人がほとんどです。
また、LGBTQなどの新しい話題に関しては、子ども達はよく知っていてふつうに受け入れているのに、大人の方がかえって、差別や偏見の意識が強いこともよくあります。
学んで知ることで、親ができるサポートも変わってきます。
岡山県で作成したものに限らず、教材・ツールはたくさんありますので、ぜひ保護者の方々は適切なものを選んで活用して学んでほしいと思います。
家庭内でライフプランを話すコツはありますか?
各ご家庭での親子の関係性はそれぞれですので、一概に言うのは難しいですが、思春期になってからいきなり、恋愛・妊娠などの将来の話をするのはお互いにハードルが高くなってきます。幼少期から将来どんなふうになりたいかを気軽に話せる関係性を築きたいものですね。
もっと言うと、なにか困った時には相談してくれる関係性であるかどうかが重要になってきます。それが親であれば一番ですが、たとえ親との関係性が良くない場合でも、誰か1人でも何でも話せる人がいるというのが子どもにとって大切かなと思います。
ライフプランを考える際に親が注意するべきことはありますか?
親と子どもは別人格です。親の望む人生を歩むとは限りません。子どもに望むことはあると思いますが、思い通りにはなかなかなりません。犯罪行為など、明らかに行ってはいけないことは止めなくてはいけませんが、そうでなければ、自分の人生観、家族観と違っても、そういう考え方もあるかと受け止め、一緒に将来を考えていくことが親にできることではないでしょうか。
子育て世帯へ、メッセージをお願いします
子育ては、親も初めての経験なので、正しいと思ってやったことがうまくいかなかったり、間違えていたりすることもあると思います。そんなときは、少し振り返って「別の道を行ってみる」というのも大切かなと思います。
100%完璧な人はいませんので、試行錯誤しながらになりますが、子ども自身が幸せと思える人生を歩めるように手伝っていけたら良いですよね。
子育て真っ只中だと、先が見えなくて不安なことも多いと思いますが、知識があることで乗り越えていけることもあると思っています。いろいろな人の意見を聞いたり、専門家に相談したり、また、自治体にどんなサポートがあるか知っておくなど、色々な人やサービスに頼りながら、子育てを楽しんでほしいと思います。
岡山大学大学院保健学研究科 中塚研究室ウェブサイト
http://www.okayama-u.ac.jp/user/mikiya/index.html
中塚幹也・独立行政法人国立研究開発法人マイポータル:researchmap
編集部コメント
妊娠・出産・不妊に関して、昨今多くの情報がありますが、当事者になって初めて知る内容も多いように思います。また、LGBTなどの性の多様性に関して、今の子ども達は学校教育で触れる機会がありますが、親世代は知らないことも多いです。人生を選択するうえで「知っていたら違ったのに」「そういう生き方もあったのか」という後悔を減らすためにも、事前に知っておくべき情報はたくさんあるなと、改めて気付かされました。日々アンテナを張り学び続けることで、子どもの未来をよりサポートできるのではないかと感じました。